ジャンクな脳と記憶

本を通じて人生の幸福を考えています。

暗黒時代は悪魔が存在したか?エルサレムから来た悪魔上、下。

 

 

 

12世紀のイギリス、ケンブリッジ。暗黒時代と呼ばれた中世の時代の中で、シチリア王国(現在のイタリア)の女性医師アデリアの活躍を描く、一風変わったミステリーです

12世紀にイギリスなんて、どんな時代だったか想像もつかないけど恐ろしく差別的な社会であったと想像に難い。そんな女性軽視な時代に先進的な考えをもった一人の聡明な女性が主人公である。

話の導入部はこうだ。

 

1171年、イングランド。ある巡礼の一行が、ケンブリッジの町への帰途にあった。修道士や修道女、十字軍の騎士たちなどからなる面々の中には、恐るべき連続殺人者もいる。殺人者が町で繰り返してきた凶行は、いまや王国そのものを揺るがす事態にまで発展していた。国王ヘンリー二世がシチリアから招聘した、優秀な調査官シモンと、検死の術を修めた若き女医アデリアは、この難事件を解決できるのか。

あらすじより。

 巡礼の旅の一行に幾人もの子供を殺めた殺人鬼がいるという。その調査を依頼されたアデリアが、その舞台であるケンブリッジで、忠実なるマンスールと協力者の老女エルザ、マスターシモンと犯人を追い詰めていくのだが、アデリアの仲間であるマスターシモンはユダヤ人で、召使であるマンスールは黒人で宦官、という奇妙な取り合わせである。時代はまだ迷信が支配していた時代であり、キリスト教が支配するイングランドではユダヤ人であるシモンは差別の対象であり、アデリアは実に科学的で聡明だが、女性軽視された世界では思うように身動きが取れなくて、それがまた物語をスリリングにしている。

 

さて、今回の「エルサレムから来た悪魔」は中々設定に凝った物語りであり、十分名作であろうが、12世紀というイメージしづらい時代背景と、アデリアの勝ち気な性格を理解できるかどうかで面白さは変わって来ると思う。

個人的には中々面白いと思ったが、とってつけたようなラブシーンや、強引な展開にはちょっと辟易する場面があった。中でも「お守り」と呼ばれた犬の伏線があのように回収されたのは、ちょっと切ない気がして、なんとかならなかったのであろうかと、読んだ人間は大体思うのではないだろうか。

 

このような中世の設定での話は中々珍しい(ましてやミステリーなど)ので、一読してみてはどうだろうか、ちなみにこのアデリアシリーズは本作を含めて3作ほど邦訳されているらしいが、作家のアリアナ・フランクリはもう故人らしく、新作が出ないのは残念なことである。

 

読んでみて思ったのは、いつの時代も人間の考え方は大きくは変わらない普遍的なものなのだなと、改めて思いました。