真っ直ぐに向き合えるか。川の深さは。
「亡国のイージス」で有名な福井晴敏のデビュー作品である「川の深さ」は文章の粗さがあるが、著者の理念が伝わる良作である。
作品自体はもう古いし、前述の「亡国のイージス」(未読)のほうが新しいしヒットしたので、本来はそちらを読むべきだろうし、おそらく完成度はそちらに方が良いと思われる。
さて、ここで質問です。
あなたの前には川が流れている。その川の深さは、*1
①足首まで
②膝まで
③腰まで
④肩まで
この質問がこの本のタイトルとなっていて、本質となっている。
元警官の桃山は警官を辞職した後、妻にも三文判を叩きつけられ、今ではしがない警備員に成り下がっていた。それは彼が生きているけど死んでる、状態であることを示している。そんな彼の元にある日、謎の男女が転がり込んで来て・・・。
作品自体はアクション映画のような体をしたものであり、よくある陰謀ものである。日本を舞台にしたアクションは荒唐無稽なものであるが、この作品の真価はそこにあるのではない。
しがない中年男が(いわゆる死に体)まっすぐに自分の信念に感化され、やがて壊れた自分自身の心を取り返す、いわば魂の復活の物語なのだ。
小説なので、そこには非日常的な事で主人公の桃山は目覚めていくが、日常に殺されている人は実生活でもかなり居るのではないだろうか?そんな人達にもこの桃山の気持ちが分かる、だけれどもこの作品のように非日常な事が起こるわけがないので、自分は今のままだ・・・。
そう考えてしまうかもしれない。
作中では桃山が出会った若い男の直向きさに心を打たれ、昔は自分もその直向きさを持っていた事を思い出した。これは誰かが持つ臨場感が他の人を巻き込んでいくシンクロシナティだと思われる。ましてやもともと似ている人が本気で思っている人を目の当たりにすると、感化されるというのは科学的にも立証されている事だ。
だれしもが荒唐無稽な事でも、本気でそれを信じ実行しているものを目の当たりにすると、それに多かれ少なかれ巻き込んでいく、よく人は環境で変わるという言葉を耳にするが、それは臨場感をもった本気の人が近くにいれば、自分も本気で生きてけるという事だ。
だから、そこが倦怠感が蔓延した場所なら、いち早く逃げ出すか(変えようなどと思わない事だ)同じように熱い心を持った人と友人になるといい。
*1:答えは本作を見てください