ジャンクな脳と記憶

本を通じて人生の幸福を考えています。

迷宮には何かが潜んでいる。隣り合わせの灰と青春。

祝福と書いて「カルキ」と読む。

そして祝詞として、「皆にカルキを」と唱える。

これは1981年にアップルで発売された伝説のRPG「ウィザードリィ」のノベライズである「隣合わせの灰と青春」の一節にあるセリフである。

原作はもう30年近く前のものだが、今読んでも中々スリリングな内容である。

当時ファミコン版が発売された「ウィザードリィ」はそのファミコンにありがちな「ニコニコ」的な優しさが一欠片も無いゲーム内容に、大人のゲームの片鱗を見る事になった。

鬱蒼とした迷宮。

大人びたグラフック。

容赦無いゲームバランス。

そして恐ろしいまでのストーリーの無さは逆に想像力を掻き立てられ、その創造物の産物がこの「隣合わせの灰と青春」というわけなのだ。

当時、ファミコン必勝本という攻略系の雑誌に連載されていた本作は、その連載の中でも異色を放っていたと思うが、いわゆる「ドラクエ」や「FF」とは違った世界観やリアル路線に「やっぱ、ウィザードリィだよなあ」と言わしめる凄さがあった。

連載では、ワードナーの玄室までしか描かれていなかったのが、単行本にて完結すると言うことで、となり町の本屋まで自転車で探しまわったのだが、売っているのが見つからず、仕方なく近所の本屋で予約して漸く手に入れた思い出がある。

作者であるベニー氏は、幾つかゲームのノベライズをしているが、この「隣合わせの灰と青春」と続編である「風よ龍にとどいているか」の二作は群を抜いて完成度が高く、「風よ龍に届いているか」はキンドルで刊行予定なので、発刊されたら是非買いたいと思っている次第である。

 

 

大魔術師ワードナーは狂王トレボーから「魔除け」を盗み出し、巨大な地下迷宮を建造し、その玄室に身を隠してしまった。トレボーは冒険者を集い、ワードナーから魔除けを取り戻す者たちを広く公募する事にした。地下迷宮には恐ろしい怪物どもが巣食っており、冒険者達は日々訓練を重ね、ワードナーを斃すために迷宮に乗り込んでいくのであった。

 

登場人物

 

スカルダ:善の侍、本編の主人公。

サラ:中立の魔法使い、ヒロイン。

ガディ:中立の戦士、スカルダの仲間。

ジャバ:中立の忍者、スカルダの仲間。

ベリアル:善の僧侶、スカルダの仲間。

シルバー:善の魔法使い、彼が死んだ所から物語は始まる。

バルカン:悪の魔法使い、死んだシルバーの代わりにスカルダのパーティに加入する。

 

ゴグレグ:悪のドワーフの戦士、ガディをライバル視している。

アルハイム:悪の僧侶、ベリアルとは兄弟子関係。

ハ・キム:悪のホビットの忍者、「ひひ」と特徴的な口癖を使う。

サンドラ:悪のノームの魔法使い、ルードラの双子の兄。

ルードラ:悪のノームの魔法使い、サンドラの双子の妹。

ラシャ:中立の盗賊、ジャバの幼なじみ。

 

物語はほぼ迷宮での戦いではあるが、ウィザードリィをプレイした事があるのなら、そのプレイ中の不可思議な事が説明されていて興味深いし、そこが面白いところである。

また、呪文などが日本語で表現されているのも中々いい味を出している。(爆炎がティルトウェイトなど)

しかし、著者のベニー氏は中々の筆力なのだが、いかんせん著作が途中で終わっているものばかりなので、描き下ろしの新作を新書として是非出してほしいものである。

この「隣合わせの灰と青春」で一番のお気に入りキャラはアルハイムであるが、それは読んでみれば納得できるのではないだろうか。

 

皆に祝福(カルキ)を!